発行物紹介

BiTvol4

『QED〜ventus〜御霊将門』(高田崇史 講談社)

 民俗学ミステリであるQEDシリーズの第十二作目。QEDシリーズにはミステリ要素の強い通常シリーズと旅行記的な色合いの強いventusシリーズがあり、今作はventusシリーズとしては三作目に当たる。そのため今作でも一応事件は起こるが、ほとんどミステリの要素は無く、強いて言えば叙述トリックが使われている程度である。しかしventusシリーズに限らずこのシリーズはどちらかといえばミステリよりも民俗学的な要素の方が基本的に強いため作品の本質としてはどちらのシリーズも変わりはないと思う。そのためこのQEDシリーズはミステリ好きな人よりも民話・伝承などといった民俗学的なものに興味のある人の方が楽しめるだろうと思う。

 今作ではタイトルどおり将門が扱われる。将門といえば言わずと知れた大怨霊ではあるが、作品中の登場人物が導き出す結論はなんと将門は決して怨霊などではないというのである。そうであれば将門の祟りで手を骨折したというアトラスの社員はいったい何なんだろうと思う。将門が怨霊ではないということは荒唐無稽な話にも思えるが、作品を読み進めていけば「まあ、そういうふうにも考えられるよね」程度には納得できる。論理の中にMMR程ではないにしても多少の飛躍が見られたり語り=騙りであるという前提があったりするので、これが正しいと鵜呑みには出来ないが、一つの見方としては非常に面白いものになっている。

 通常シリーズでも作中に出てきた神社などに行きたくなるが、ventusシリーズは旅行記的に描かれるのでその傾向がより強くなってしまうので、この点がいい意味でこのシリーズの欠点だと思う。ちなみにQEDというのは「quod erat demonstrandum」の略で「証明終わり」といった意味になっており、作品の主人公の決め台詞的なものになっている。

 解説によるとこの作者は作中の主人公のタタルと同じように参拝セットなどを持ち歩いているようで、もしかしたら主人公のタタルという渾名も作者自身が呼ばれていた渾名なのかなあと思う。(toshi)

新人レビュー・第二回

『数学ガール』(結城 浩 SoftBank Creative)

 「綺麗なお姉さんは好きですか?」は一昔前にはやったフレーズ(今も健在かもしれませんが…)。では、「黒髪長髪の才媛な眼鏡少女(ミルカさん)」は?「元気で素直な可愛い後輩(テトラちゃん)」は好きですか? 『数学ガール』はそんな二人の少女と「僕」が一緒に数学を解いていく。更に、数学を解くだけではなく時に二人の少女とのやりとりも含まれている。  ちょっとした頭の体操レベルの数学から、ちょっと手強い頭を悩ますレベルの数学まで勢揃い。特に、この『数学ガール(第一巻)』はオイラーの定理を全体のテーマにしていて一見難しい印象があるかもしれないが、はじめは素数やら相加相乗平均の公式なんかで理解も簡単です。素数や相加相乗平均なんかと言っても、本書の数学は学校の数学とはひと味もふた味も違う。だから学校の数学が苦手という人も読める!  ミルカさんの言っている数学はちょっと難しめでミルカさんの言っていることが分からなくても大丈夫。テトラちゃんが数学が苦手な人目線で疑問を投げかけてくれて、難しい数学に小休止を与えてくれる。やっぱり、数学が苦手な人でも読める!  というのが本書の大まかな特徴。  実際に本書を読んでみるとまず思うのが、字の読みやすさ。TeXを使って書いてあり普通の会話文も数式も、とにかく読みやすい。実際に目が疲れにくいから結構すらすら読める。  次に内容であるが、数学「ガール」というだけあって恋愛っぽさは絡んでくる。ミルカさんが「僕」をどう思っているかは作中ではよく分からないが(好意を抱いていると私は思うが)テトラちゃんから「僕」への思いは凄く露骨に分かる。だから、2人合わせると本書の恋愛関係の濃さはちょうどよくなるのだが、テトラちゃんに着目していると結構甘ったるくなったりもする。  数学に関しても、テトラちゃんの所は簡単な部分が多いから結構だれてくるので人によっては少し注意が必要だと思う。(逆にミルカさんの部分だと頭がこんがらかってくるときがあるのだが…)  おすすめの章は「ωのワルツ」。やっていることはそんなに難しくないので、理解もしやすい。かといって難しすぎもしない。知っていそうで知らない。そんなことを発見させてくれる。それに会話の内容としても面白くなっている。  ちなみに、テトラちゃんのいっていることも難しいなどとそれでも難しいと感じるのなら、まずは本書をアレンジした漫画版『数学ガール』から読むことを勧める。本書と違い数学の分量が少なくなっている分(フィボナッチ数列の証明まで)、「僕」と二人の少女との関係を中心に扱っていますから読みやすい。本書では書かれていない心情描写が書いてあったりと、ひと味違った『数学ガール』が楽しめる。しかし、ここで注意してほしいのが本当に恋愛中心になってしまっているということ。本書のテトラちゃんの部分以上に甘ったるい。数学の説明が略されていたりするので漫画版を数学を楽しもうと思って読むのはやめておいた方が良い。それでもやはり『数学ガール』の世界観を楽しめる。(あずま)

『東方地霊殿 〜Subterranean Animism』(上海アリス幻樂団)

 上海アリス幻樂団発行の東方Project第十一弾東方地霊殿のレビューです。  某笑顔動画のせいで知名度は多少上がっているかと思いますが、知らない人のために簡単に紹介します。東方はZUN(通称:神主)が全て一人で作っている弾幕シューティングゲームです。スペルカードシステムが最大の特徴で、このゲームの魅力としては弾幕の美しさ、音楽、キャラクターがあげられます。  自機はいつもの二人に、それぞれ三人のパートナーがつき計六種類となっています。私が使うのは主に紫でショット、ボム、特殊能力ともに強力で非常に使いやすくなっています。個人的使いやすさは紫>文>にとり>萃香>パチュリー>アリスとなっています。  一面はボスの蜘蛛を模したキャラデザに神主のセンスを感じられます。「キャプチャーウェブ」は見た目が素敵。二面の「謙虚なる富者への片根」は仕掛けが解るまでは難しいので東方らしい弾幕でした。三面はボスがジョジョっぽいです。「三歩必殺」はパターンが解っていても運が悪いと詰むため、慣れていても死にます。四面は道中がここから難しくなっています。ボスはパートナーのスペカを使ってくるため難易度が相当変わります。「二重黒死蝶」は元のスペカがお気に入りなのでかなりテンションが上がりました。こういう演出は非常にうれしい。「賢者の石」は元よりも見た目が格段に美しく、今作のベストスペル。五面の道中は撃ち返し弾が多く弾密度も高く、さらにボスは地霊殿での最凶キャラのため五面が鬼門となっています。スペカは難しくノーボムは絶望的で、ほぼボムゲーになっています。最終面は道中で自機狙い弾が延々続くので紫以外のキャラではよほど切り返しが上手くない限りボムゲーとなります。「地獄の人工太陽」は同士討ちの危険性があり、紅魔郷エクストラでの悪夢を思い出させてくれます。エクストラボスは歴代最強で、可愛らしいハート弾に見合わず弾幕はマジ外道。正直まだクリア出来ていません。ハートで埋め尽くされた画面は面白いけれど、楽しむ余裕は全くありません。  グラフィックは紅魔郷の頃とくらべると格段に上手くなって背景は美しく、ドット絵は可愛くなっています。キャラ絵は毎回画風が変わっているが絵としては上手くなっており、神主のアレンジが加わったキャラは毎回素敵。最初神主絵を見た時にヘタ過ぎワロタと思ったことは今となってはいい思い出です。  地底の話なので暗い曲ばかりだと思いましたが、いい意味でいつもの東方で安心しました。神主は曲を作りたくて東方を作っているので毎回曲のクオリティは高く、最大の売りとなっています。今回は「旧地獄街道を行く」と「ハルトマンの妖怪少女」が個人的名曲。  今作はシリーズ最高難易度ですが、いつも通りパターンを組めばクリアできるようになっています。今作もキャラに神主流のアレンジが見え興味深く、次回作も非常に楽しみです。怒首領蜂や斑鳩と比べればかなりヌルいので弾幕シューに興味のある方は入門編として上海アリス幻樂団のサイトで体験版がダウンロードできるためやってみるのはどうでしょうか。(中井)


Last-modified: 2010-07-14 (水) 01:59:49 (2900d)