発行物紹介

BiTvol2

『1Q84 BOOK1・2』(村上春樹 新潮社)

 村上春樹の7年ぶりの新作にして書下ろし、そしてオーウェルの『一九八四年』が引き合いに出されていたので期待せざるをえなかったが、蓋を開けてみれば『一九八四年』的なものを求めすぎた分少し物足りないという印象だ。  一気に読ませる文章力や不思議としっくりくる比喩は流石で、うまいとは思う。しかし、小説の中で取り上げられている社会問題に突っ込んでいくかと思いきや、結局のところお世辞にもカッコいいとはいえない男に運命の女性が近づいてくるといういつものボーイ・ミーツ・ガール的なプロットにはまりこんでしまっている。そこが良くも悪くも村上春樹らしさかもしれないが、非常に残念。  2巻が終わった時点で回収されていない伏線が多く、物語は閉じていない。3、4巻が出ると期待して、最終的な評価は控えておこう。(出井)

『白い紙』(文學界6月号所収)(シリン・ネザマフィ 文藝春秋)

 イラン人留学生が日本語で書いた小説で文学界新人賞を獲ったという話は以前ニュースにもなっており、ご存知の方は多いと思う。興味をそそられ読んでみた。  「イランを舞台にした作品をイラン人が日本語で書く必要はないんじゃないの」「若干日本語がおかしい」など講評にあるような論難はこの際置いて、褒められそうなところを見つけよう。  「一人称ながら主語を排した語り口」は日本語の特性を活かした点として講評にも挙げられている。そこからは一貫した「他者への視線」が見て取れる。主人公の目から見た世界を徹底して写実的に描くことで、透かし彫りのごとく強調される「自己への反射」は、逆説的に感情の内部を表現する。私小説の伝統に根差す内向的な独白形式が多い日本の一人称小説(オーウェル好きのあの人とか)の中で、この点は評価できるだろう。(カンパニール)

[漫画]『ブラック・ジョーク 2』(小池倫太郎・田口雅之 秋田書店)

 漫画版『バトル・ロワイアル』作画者、田口雅之によるマフィアアクションの第二巻。  合法カジノ街を舞台に暗躍する魑魅魍魎を相手どり、主人公吉良潔の口八丁と相棒の暴力がますます冴える様子、とてつもなく愉快である。凶悪なナポリマフィアに無理難題を押し付けられハッタリと機知で何とかせざるを得なくなったり、自分を仇と狙う新キャラが出てきたり、吉良に安息はなかなか訪れない。  けれん味のある台詞や脳の配線が吹っ飛んだ多数のキャラなどで、「秋田書店版『ブラック・ラグーン』」と見る向きも多いが(名前も似ている)、基本的に何話かで完結するトラブル解決話であり、こちらのほうがより娯楽度は高いと言えるだろう。説教臭さもなく、読後感はただただ爽快である。(gern)

[映画]『ヱヴァンゲリヲン新劇場版 破』(総監督 庵野秀明)

 言わずと知れた十年以上前のアニメの再構築版。三部構成の四作品の予定で、今回の『破』はその二作目で第二部にあたる。再構築とはいえ、サブタイトルが示すとおり今回はずいぶん旧作から破れた内容になっている。  といっても、旧作を知らなければ楽しめないわけではない。むしろ、知らないことを前提で作られているとも見える。実際、端々でそれを感じた。あるいは新劇場版第一作の『序』すら見ていない人まで考慮されているのかもしれない。  エヴァンゲリオンという作品には、真っ先に難解とか複雑とかいうイメージがつきまとう。だがしかし、こと『破』において、そういった複雑さは忘れてしまって構わない。純粋にエンターテイメントとして鑑賞したい。(copa)


Last-modified: 2010-07-14 (水) 00:50:54 (2990d)