BiTvol1 †『美人作家は二度死ぬ』(小谷野敦 論想社) †今の五千円札の顔、樋口一葉は「たけくらべ」を絶賛された直後に死に、一層評判を高めることになった。もし彼女がそのとき死ななかったらどうなっただろう? それが表題作の肝である。 といっても話の舞台は現代だ。主人公は「忘れられた作家」樋口一葉を修論で取り上げることにした女子大学院生で、彼女の過去回想や大学の内幕暴露的な話、それらに一葉の日記が被さっていく。 樋口一葉作品の読み解きが中心で、多くのイフものにある「AがBを引き起こしCは起きなかった」のような面白味は少ないが、一葉のテーマの一つでもある性問題とそれに絡んだ文学トークなど、非常に興味深く読めた。 未来の文学賞選考会を描いた併録作「純文学の祭り」には爆笑。(鍵下) 『ユダヤ警官同盟』(M・シェイボン 新潮社) † こちらも歴史イフもの。英語圏でのSF小説賞を三つ同時に受賞している。 [漫画]『トンボー 1』(沼田純 秋田書店) †三大少年漫画誌の四番目ことチャンピオン。そのファンの自嘲的なギャグに「一巻が出ない」「二巻が出ない」「一・二巻は出たけど最終巻が出ない」というのがある。作者の前作は一番目だった。 つまり一巻が出た時点で『トンボー』は前作より面白いということが分かる。というか普通に面白い。のでどこが面白いのか考えていたのだが、その多くがチャンピオン漫画に言及する内輪ネタにあることに気付いた。刃牙だの浦安だの覚悟のススメだのの。 そこでチャンピオン好きでなきゃ面白く読めないの? という疑問が出てくるが、あまり否定はできない。毎号全作品を舐めるように読む人間なら確実に面白く読めるだろうが、そういう人は既に買っているだろう。 (gern) [映画]『グラン・トリノ』(C・イーストウッド監督) †本作は葬儀で始まり葬儀で終わる。多くのヒーローを演じたイーストウッドは、ある男の幕引きを本作で表現した。 主人公ウォルトは別に超人ではない。五十年前に戦場に行き勲章をもらった程度の偏屈老人で、車を盗まれそうになったら銃を取り出すような、あまり近所付き合いをしたくないタイプである。 そんな彼が隣のアジア人一家と関わっていくうちに、彼らの抱えるトラブルを知る。そして主人公はひとつの決断を下すことになるのだが、それが彼の終わりへとつながっていくのだ。 異文化交流のくだりなどユーモアも散りばめられているためか極端に悲愴的ではない。だが一度でもヒーローとは何かを考えたことのある者なら、おそらく号泣は必至であろう。(歌山) |