キングダム・カム(アレックス・ロス)

アレックス・ロスの超美麗作画にびっくりしたのもつかの間、まるでとってつけたかのようなハッピーエンドに思わず首を傾げてしまった。それまでのわだかまりもなんのその、いきなり語りだす老いたスーパーマンの姿にはっきり言って呆然としたし、結局アメリカ万歳かよとゲンナリもした。

しかしこれは僕がバットマンをあまりに好き過ぎたために起きた過ちである。あるキャラクターに焦点をあてたとき、本書の見方はがらりと変わってくる。

少年の変身する超人、キャプテン・マーベル。彼の扱いはあまりにひどい。レックス・ルーサーによって洗脳されスーパーマンと戦うことになった挙句、自我を取り戻したのもつかの間超人たちへと向けられる核兵器を止めるため自爆。しかも彼の死は大勢に何も影響を及ぼさない(ように見える)。

なぜこれほどまでに彼の扱いがひどいのか。つまるところ、本書とは回答なのだ。それもDCコミックスから出た『ウォッチメン』、『バットマン:ダークナイト・リターンズ』などにより暴力的で陰鬱な作風のコミックが増えたこと、ヒーローという存在が揺らぎがちになってしまったことへの。もっとも純粋なヒーローの堕落、つまりキャプテン・マーベルが洗脳されスーパーマンと戦う姿がその風潮を象徴する。そして彼は自我を取り戻しつつも死ぬ、しかしスーパーマンの押さえ切れない怒りをとどめ目を覚まさせたのが結局彼という犠牲だったことは、迷いつつもヒーロー性への肯定を表明する本書を示している。もっとも本書のハッピーエンドとは違ってこれから先コミック界の陰鬱な風潮がなくなることは多分ありえないだろうが、それがどちらに転がるにしろ(コミック界の陰鬱さやバイオレンスさに歯止めをかけた作品となるか、それらを結局止められなかった旧く反発的な作品となるか)この作品がポイントとなりうることは確かである。

同じくアレックス・ロスの『マーヴルズ』はマーヴルコミックス世界の歴史を総括し市井の人々の目から眺めなおしたものである。そして本書はウォッチメンやDKR以降のコミック界の流れをDCキャラたちで表現しなおかつ『あるべきヒーローの形』をも明示した一種のメタフィクションと定義することが可能だろう。(片桐)


Last-modified: 2007-04-05 (木) 03:45:29 (4247d)