必殺の冥路

 この邦訳はどうにかならんもんだろうか。こんなタイトルはBクラスのアクションビデオのもんだよ。全く。原題は、VOICE OF WHIRLWIND(つむじ風の声)、うっさらにわけわからん。ははははは・・・・

 小説は中身さっ、タイトルは二の次さっ。というわけでこの話は、前作『ハードワイヤード』の設定の百年ほど後の話だそうです。私は、『ハードワイヤード』を読んでおりませんので、何とも言えません。

 話の方は、まず、クローン保険という物が成立しています。この、クローン保険自体は別に目新しい物ではないし、現実に、フセイン大統領だって、どっかの研究機関に、自分のクローンを作れないものかと打診したことがあるそうです。しかし現在の技術では、記憶の保存と、コピーをすることはできないから、クローンが同一人物にはなるはずがないですね。話はそれますが、SFマガジン五月号に、『版権切れ』(チャールズ・シェフィールド/嶋田洋一訳)という短編が載っていますが、これもクローンを題材にしていて、高名な科学者たちを再生して、開発、研究をさせようという話ですが、一筋縄ではいかない様子を、コメディ風に描いています。話を戻して、必殺の冥路では、まず、主人公のスチュワールが再生し記憶を戻されるところから始まります。しかし、その記憶が、死ぬ二十年前のものだったところから、自分はなぜ死んだのか?自分の記憶を求めての旅が、戦いが始まります。(どっかで聞いたような台詞だな)後は読んでください。

 設定で面白いのは、生前の肉体をアルファ、クローンをベータとして区別をつけています。つまり、クローン再生された肉体は、本人と同じもので、記憶も、普通の場合は、死ぬ直前のものですから、アルファ、ベータと区別する必要はないはずです。

 しかし、本文のなかで、『「おれ(ベータ)は彼(アルファ)じゃない」とスチュワールは言った。だが、それは本当だろうか。』というくだりがある。つまり、作者は、再生された人間は、いかにそっくり(同じ肉体、同じ記憶)があろうとも、死ぬ前と同じにはなれないと考察しているのではないでしょうか。それと、脳天使というエイリアンの設定にも興味深いものがあります。

 結構強引に話は進みますが、サイバー・アクションものとして割り切って読めば、適当に楽しめる作品です。

(松野)


Last-modified: 2006-09-18 (月) 04:31:49 (6422d)